“酷暑五輪”風の道広げ克服

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真夏に開催される2020年の東京五輪に向けて、都市の暑さ対策がクローズアップされてきた。

 

環境省は来年度予算で余剰地下水などを活用した実証事業を要求しているほか、東京都もオリンピック準備局と環境局を中心に暑さ対策の検討に着手した。

 

2020年に向けた都市再開発の活発化でヒートアイランド現象の深刻化が懸念されるだけに、日本橋川や旧・京橋川などの地域では「風の道」や「緑地」を活用した環境に優れた都市づくりも動き出している。

 

 

 

「東京オリンピックまで、あと6年。100年かかって3度上昇した東京の気温を短期間で元に戻すのは難しいが、何らかの暑さ対策は必要だ。熱中症などで救急搬送される人の増加も心配される」(環境省水・大気環境局大気生活環境室・山根正慎室長補佐)

 

東京五輪の開催期間は7月24日から8月9日までの17日間。

ちょうど東京が最も暑くなる時期だ。

パラリンピックは8月25日から9月6日だが、残暑も厳しい。

室内競技場には空調設備もあるが、日本期待のマラソンのコースは超高層ビルが林立する都心部に設定される予定で、選手はもちろん沿道で応援する観 客にとっても過酷な環境となるのは間違いない。

 

10月開催だった50年前の前回五輪での爽やかな秋晴れの印象が強いためか、真夏の大会に向けた暑さ対策の準備はほとんど進んでいないのが実情だ。

オリンピック招致の立候補ファイルでも触れていない。

東京都環境局に問い合わせると「オリンピック準備局と真夏の大会を適切に運営するための検討を始めたところ。

具体的な取り組みはこれからだ」(都市地球環境部環境都市づくり課)という。

 

しかし、2020年に向けて都心では再開発が既に活発に動き出している。

ヒートアイランド現象の原因は、都市化による緑地や水面などの減少と超高層ビルなどの高密度化、それに自動車や建築物からの人工排熱の増加だ。

十分な対策を講じないままに都市再開発が進めば、一層の深刻化は避けられない。

 

ヒートアイランド現象をオリンピック期間だけ緩和できれば良いわけではない。

高齢化の進展で、6~9月の夏季に熱中症で救急搬送される人は東京都でも毎年3,000人を超え、猛暑だった2013年は4,500人を記録した。

快適に生活できる都市環境を実現するためにも、大会に向けた短期的な対策だけでなく、長期的な対策にも取り組むことが不可欠だ。

 

鍵を握るのは、都市の人工排熱などを拡散する役割を果たす「風の道」の確保。

ヒートアイランド対策として風の通り道の重要性が広く認識されたのは、旧国鉄跡地を再開発して2002年に街開きした汐留シオサイトがきっかけだった。

東京湾から浜離宮庭園を通って吹き込む海風を遮るように超高層ビル群が建設されたため、内陸部に吹く風が弱まり、ヒートアイランド現象が悪化したとの研究結果が報道され、注目が集まった。

 

2004年3月に政府が策定したヒートアイランド対策大綱には「都市において緑地の保全を図りつつ、緑地や水面からの風の通り道を確保する」ことを明記。

昨年12月には国土交通省が「ヒートアイランド現象緩和に向けた都市づくりガイドライン」を策定し、「風の道」を活用した都市づくりを積極的に推進する方針を打ち出している。

 

特に“川”の重要性が再認識されている。

日本橋で再開発を進める三井不動産日本橋街づくり推進部の新原昇平部長は「日本橋川も川沿いの建物をセットバックして風の道を広げられるように地元と検討を進めている。ただ、川の水面を高速道路が塞いでいるために、気温を下げる効果が十分に発揮できないのが残念だ」と話す。

 

 

 

東京の川は、もともと東京湾からの涼しい海風を内陸部へと送り込む機能を果たしていた。

現在でも隅田川、日本橋川、古川などは風の道として大きな役割を 発揮しているが、前回の東京オリンピックの時に高速道路がかけられ、小さな川や堀は次々に埋め立てられたり、暗渠(あんきょ)となり、風の道としての機能が失われてしまった。

 

日本橋川で高速道路が撤去できれば、水面を吹く風の量が増えて、気温を2、3度下げられるとのシミュレーション結果もあり、“川の再生”はヒートアイランド対策の切り札となり得る。

 

戦後に埋め立てられた旧・京橋川を復活させようという地元住民による活動も2010年から始まっている。

当初は地域活性化策として京橋三丁目町会が出したアイデアだったが、東京大学大学院の石川幹子教授(現・中央大学教授)に相談すると都市再生の具体的なテーマとして研究がスタートした。

 

「海洋研究開発機構地球シミュレーターセンターと東京大学石川研究室による解析では、京橋川の再生で気温が0.2~1.0度低下し、地表付近の風速が毎 秒1メートル強くなるとの結果が得られた」と、石川研究室の研究員だった街づくりコンサルタントの鹿内京子氏は再生の効果を強調する。

京橋川の再生に向けては、現在、京橋三丁目町会が中心となってNPO法人(特定非営利活動法人)「京橋川再生の会」を設立し、中央区に提案している。

実現の可能性は未知数だが、京橋川を復活して川沿いを「京橋川公園」にしようというアイデアだ。

 

ただ、一足飛びに埋め立てた川を再生するのは極めて困難。

旧京橋川の埋め立て地には、前回の東京五輪の時に東京高速道路株式会社が賃貸ビルと無料の高速道路を一体開発した「KK線」を建設し、首都高速道路都心環状線と接続されている。

土地は東京都が所有するが、建物や道路は民間会社の所有であり、撤去を求めるのは簡単ではない。

 

そこで短期的に実現可能な方策として、KK線を残したまま車の交通を止め、外堀通りと昭和通りの間の550メートルの区間を屋上庭園にすることも提案する。

KK線の交通量は平日4,000台以下で、5万台以上の都心環状線の10分の1以下。

京橋川再生の会としては旧・京橋川部分の交通を止めても、道路ネットワークへの影響は小さいとみる。

 

モデルとしたのは、9月に全長2.3キロが完成した米ニューヨークのハイラインだ。

使われなくなった高架線路を利用して遊歩道と公園として整備し、2009年から順次オープンし、新しい観光スポットとして人気を集めている。

 

「まずは交通量の少ない休日で試して、オリンピックの期間に開放してはどうか」(鹿内氏)。

高架道路からは、マラソン選手が走る中央通りを見下ろせるので、絶好の観覧席になる。

観光スポットとして集客力が高まり、賃貸ビル経営にもプラスだ。

 

先月、イタリア・ベネチアで開催された第3回ヒートアイランド対策国際会議では日本での20年以上にわたるヒートアイランドに対する研究や対策の取り組みが表彰されるなど、国際的にも高く評価されている。

今月2日に公表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書では、地球温暖化対策の緊急性が改めて強調された。

 

それだけに、日本のヒートアイランド研究の第一人者である、国交省国土技術政策総合研究所環境・設備基準研究室の足永靖信室長は「東京五輪では水素自動車の導入など地球温暖化ガス削減に向けて、さすが日本と評価されるような最先端の環境対策を示す必要がある」と力を込める。

 

戦後復興と高度経済成長を世界に印象付けた前回の東京五輪に対して、2020年では何を世界に示すのかが問われている。

 

 

 

SankeiBizより

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