廃線観光で地域おこし

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4月8日、岐阜県飛騨市で「ロストラインフェスティバル in 神岡」が開催された。

 

イベントの目玉の1つとして、2006年に廃止となった神岡鉄道のディーゼルカー「おくひだ1号」が約10年ぶりに本線を走行した。

 

廃止になった鉄道路線を現役時代の車両が走る。

その珍しさから、静かな温泉町に鉄道ファンや近隣の人々など、多くの人々が集まった。

まるで新路線が開通したようなお祭りムードだった。テレビや新聞など報道陣も詰めかけた。

 

 

 

飛騨市は2004年に古川町・神岡町・河合村・宮川村が合併して発足した。

2006年に神岡鉄道の廃止が決まったとき、神岡町出身の初代市長は神岡鉄道を観光鉄道として復活させる考えだった。

神岡鉄道の主要株主、三井金属鉱業株式会社から線路・車両などの施設を譲り受けた。

2代目市長が廃線活用に反対するなど北風も吹いた。

しかし、3代目の現職市長はレールマウンテンバイクの実績を評価し、飛騨市の財産として注目している。

その理解が「ロストラインフェスティバル」と「おくひだ1号」の復活につながった。

 

 

 

現市長の都竹淳也氏や、レールマウンテンバイク「ガッタンゴー」を運営するNPO法人「神岡・町づくりネットワーク」理事長の鈴木進悟氏によると、当初は車庫に保存したままの車両を奥飛騨温泉口駅に展示し、ガッタンゴーの利用促進につなげようという目的だった。

ところが、車両をトレーラーで運搬する費用は2,000万円以上かかる。

 

そこで「線路がつながっているなら走らせればいい」と思い付く。

試しにエンジンをかけてみたら動いた。

しかし、駆動系の腐食などで走行はできなかった。

車両の修繕、線路の点検調査費用として100万円を市が予算化。

神岡鉄道の元職員やジェイアール貨物・北陸ロジスティクスの職員などに協力を仰ぎ、今回の復活運行が実現した。

国土交通省からは「鉄道事業の実態はなく、飛騨市が自前の資産を動かすだけ」という解釈をされたという。

つまり、あずかり知らぬということだ。

 

 

 

「おくひだ1号の運行が鉄道事業ではない」という理由は、同日の夕方から開催された「ロストライン協議会」の設立総会でも明らかにされた。

基調講演で衆議院議員・前内閣府特命担当大臣(地方創生担当)の石破茂氏は「国土交通省に確認したところ、遊園地の列車と同じで、輸送を目的としない鉄道は鉄道事業には相当しない」と説明した。

 

では、輸送とは何かと言えば「運送距離が概ね500メートルを超え、かつ、時速20キロメートルを超え、なおかつ1時間あたり1,000人を超える輸送量である」とのこと。

「おくひだ1号」は運送距離について500メートルを超えている。

しかし、今回は時速20キロメートル未満で走り、1両の定員内で1時間に1往復しただけだから1,000人を下回る。

この基準は、ロストライン活用が鉄道事業と線引きするための重要な数値だ。

 

「おくひだ1号」の復活運行は、ガッタンゴーの今シーズンオープン日の前日とした。

この日を賑やかな祭りとしたいと「ロストラインフェスティバル」の開催も決めた。

さらに、全国で廃線を使った観光利用、町おこしをする団体を招き、シンポジウムを開催したい。

情報交換、相互交流の団体を結成しよう、となった。

かねてより交流していた秋田県の「大館・小坂鉄道レールバイク」と宮崎県の「高千穂あまてらす鉄道株式会社」の賛同を得て、全国の団体に参加を呼び掛けた。

これが日本ロストライン協議会となった。

 

 

 

日本ロストライン協議会の目的と活動内容については、協議会規約に明記されている。

 

第2条 この協議会は、全国の廃線軌道のレールを残して活用し、事業化または計画をしている各種団体などが、相互連携し、交流や研修並びに情報交換等により、廃線利活用事業の発展を目指すことを目的とする

 

第3条 この協議会は、前条の目的達成のため次の事業を行う。

(1)会員相互の交流並びに、情報交換に関すること。

(2)廃線利活用事業の運営に関わる諸問題の改善並びに、調査研究に関すること。

(3)廃線利活用事業の運行に関わる各種技術の研修並びに、指導にかかわること。

(4)各関係機関との連絡及び、情報交換に関すること。

(5)廃線利活用事業のPR活動に関すること。

(6)その他、協議会の目的達成のために必要な事業。

 

廃線軌道を残して「活用し」という部分が主目的だ。

「復活」や「復元」ではない。だからこそ神岡のように、線路で「レールマウンテンバイク」を走らせて遊ぼう、という発想ができる。

レールマウンテンバイクは、他の地ではレールバイクと呼ばれる。

バイクはオートバイではなく、自転車だ。

線路の保守点検用に使う「軌道自転車」をヒントに作られた。

 

日本ロストライン協議会の設立総会には12団体が出席、署名した。

郵送で署名した3団体と合わせて、15団体で発足となった。

参加団体と簡単なプロフィールは次の通り。

 

 

 

  • 岐阜県 NPO法人 神岡・まちづくりネットワーク

 

2006年に廃止された神岡鉄道の線路2.9キロメートルでレールマウンテンバイクを運営。

5年間でほぼ全線の約20キロメートルに拡大し、小型動力車で牽引するトロッコタイプも導入する計画。

 

 

 

  • 宮崎県 高千穂あまてらす鉄道株式会社

 

2008年に廃止された高千穂鉄道の線路で、エンジン付きトロッコ「スーパーカート」を運営する。

日本一高い鉄橋として知られていた高千穂鉄橋を通過する。

現役時代よりスリルが増した。

 

 

 

  • 秋田県 NPO法人 大館・小坂鉄道レールバイク

 

2009年に廃止された小坂鉄道の大館市側の線路でレールバイクを運営。電動車でけん引するトロッコタイプもある。

約1.8キロメートルと約2キロメートルの区間があり、時期によって替わる。

 

 

 

上記3団体が幹事となり、神岡・まちづくりネットワーク代表が会長に、高千穂あまてらす鉄道と大館・小坂鉄道レールバイクが副会長に承認された。

 

 

 

  • 北海道 NPO法人 北海道鉄道遺産ネットワーク

 

北海道の歴史的な鉄道車両、鉄道施設を保存、活用する14の団体の集まり。

車両保存を主とする団体のほか、レールバイクやトロッコ列車を運行する団体もある。

 

 

 

  • 秋田県 小坂町 小坂鉄道レールパーク

 

小坂鉄道の小坂町側で鉄道博物館を運営する。

小坂鉄道の車両を保存展示するほか、旧小阪駅構内でレールバイクやトロッコを運行。

ブルートレインの客車に宿泊できる。

 

 

 

  • 岩手県 岩泉線レールバイク(和井内刈屋地域振興会)

 

2014年に廃止されたJR東日本の岩泉線でレールバイクを運行する。

旧岩手和井内駅〜旧中里駅間の片道3キロメートル。

2人用、4人用、電動アシスト付きタイプがある。

 

 

 

  • 石川県 なつかしの尾小屋鉄道を守る会

 

1977年に廃止された尾小屋鉄道の車両を保存する。

ディーゼルカーは動態保存で体験乗車可能。

群馬県の鉱山鉄道で活躍したトロッコ車両を譲り受け、線路を敷設して運行する。

 

 

 

  • 岐阜県 NPO法人 ふるさと谷汲(庭箱鉄道)

 

ふるさと谷汲は2001年に廃止された名古屋鉄道谷汲線の谷汲駅構内と車両を保存。

庭箱鉄道は岐阜県などで15インチゲージのミニ鉄道を運行する団体で、谷汲駅の車両運転体験イベントを主催する。

 

 

 

  • 岐阜県 小坂森林鉄道研究会/愛知県 NPO法人 愛岐トンネル群保存再生委員会

 

旧国鉄中央本線の新線建設によって廃止となった旧線の高蔵寺〜多治見間に存在する多数のトンネルを発掘、研究する。

4つのトンネルを持つ1.7キロメートル区間を整備し一般公開イベントを実施している。

 

 

 

  • 三重県 一般財団法人 熊野市ふるさと振興公社 入鹿温泉ホテル瀞流荘

 

紀州鉱山が運行していたトロッコ軌道を再利用し、入鹿温泉と湯ノ口温泉の約1キロメートルをバッテリー機関車とトロッコ車両で結ぶ。

レールマウンテンバイクも運行している。

 

 

 

  • 鳥取県 倉吉観光マイス協会

 

1984年に廃止された国鉄倉吉線の打吹駅跡地で倉吉線鉄道記念館を運営する。

付近の廃線跡は遊歩道として整備。線路が残された場所も多く、トンネルを通るトレッキングツアーを開催している。

 

 

 

  • 岡山県 美咲町(片上鉄道保存会)

 

1991年に廃止された片上鉄道の吉ヶ原駅構内を再利用し、柵原ふれあい鉱山公園として整備。

動態保存車両を運行する。

2014年に黄福柵原駅を新設し、運行距離は片道400メートルになった。

 

 

 

  • 福岡県 赤村トロッコの会

 

建設中止となった国鉄油須原線の未開業区間を転用し、観光鉄道として赤村トロッコ油須原線を運行する。

片道約1.7キロメートルを往復する。

乗降場が平成筑豊鉄道の赤駅に隣接している。

 

 

 

  • NPO法人 J-heritage

 

廃鉱、廃線、近代建築などの産業遺産(ヘリテージ)を記録、紹介する。

産業遺産の見学ツアー「ヘリテージ・ツーリズム」や、産業遺産関連のイベントを開催している。

 

 

 

  • 日本鉄道保存協会と日本ロストライン協議会

 

廃止路線や引退車両を保存する団体の組織として「日本鉄道保存協会」がある。

こちらは1991年の創立から26年の活動実績があり、正会員は鉄道保存団体や鉄道会社など46団体。

賛助会員は鉄道雑誌出版社、旅行会社など10団体。

顧問には大学教授、博物館館長、公益財団法人交通協力会会長が名を連ねる。

 

日本鉄道保存協会の目的も「歴史的鉄道車両、構造物、建物等を保存している団体が集い、相互に情報を交換し、将来にわたる保存・活用を推進することを目的とする(第2条)」だ。

「活用」の文字が入る。

しかし、活動内容を拝見すると、現役時代の鉄道にこだわった、学術研究的な意味合いが強そうだ。

 

日本ロストライン協議会の参加団体の共通点を探すと「乗って遊ぶ」になる。

実際の鉄道車両もあるとはいえ、トロッコ、マウンテンバイクなど、現役時代の鉄道の姿にとらわれない形だ。

こうした施設で遊ぶ体験を、日本ロストライン協議会では「ロストライン・ツーリズム」と呼ぶ。

設立総会後の事例発表会では観光庁も参加し、日本の観光市場の変遷、国の取り組みを紹介しつつ、ロストライン・ツーリズムを応援したいと結んだ。

 

 

 

日本鉄道保存協会は鉄道ファンを満足させる知識が豊富。

日本ロストライン協議会は商売上手、といったところか。

日本鉄道保存協会と日本ロストライン協議会はすみ分けができている。

廃線にかかわる団体は運営方針によって加盟を選択すればいい。

あるいは両方に参加する場合もあるだろう。

 

例えば、日本ロストライン協議会に参加した北海道鉄道遺産ネットワークの中で、いくつかの所属団体が日本鉄道保存協会に名を連ねている。

片上鉄道保存会は日本鉄道保存協会で、施設を保有する岡山県美咲町は日本ロストライン協議会だ。

小坂鉄道保存会は両方に参加している。

 

日本ロストライン協議会の幹事団体「神岡・まちづくりネットワーク」の関係者も「おくひだ1号」の復活を機会として日本鉄道保存協会への参加を検討したいという。

それぞれの会が得意な役割を生かして、お互いに協力し合う関係になってほしい。

 

 

 

鉄道車両を使わない「レールバイク」や「トロッコ」は、鉄道趣味とは言えない。

しかし、鉄道ファンの私が神岡のガッタンゴーに乗ってみたら、とてもおもしろかった。

線路に近い目線で、自力で走る経験は気分を高揚させる。

分岐器を通過すると、自分が鉄道車両になったような感覚。

鉄橋もトンネルもそうだ。

本物の線路を使った「でんしゃごっこ」の楽しさだった。

 

廃止された鉄道線路が、観光資源として生き返ったように思えて感動する。

そして汗をかいた。

これはスポーツだ。

心地良い汗をかいて、風呂に入りたくなった。

ここは奥飛騨温泉だ。そうか、ガッタンゴーは、自身のレジャー施設としての収益のほかに、温泉町の付加価値でもあるわけだ。

温泉に行きたい、どこに行こう。

何かほかにおもしろい施設があるところが良いな、となる。

地域に貢献するレジャー施設へ。新たな使命を受けて愛される鉄道がある。

それがロストライン・ツーリズムだ。

【杉山淳一】

 

 

 

ITmedia ビジネスオンラインより

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