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2011年02月27日

乗ること自体が楽しみ?

昨年12月、国土交通省北海道運輸局の八鍬(やくわ)隆局長は会見で、「お年寄りが乗るのを楽しみにしている。理想じゃないか」と、当別町のコミュニティバスを地域公共交通の成功例として挙げた。

乗るのが楽しみなバスって、いったいどんなバス?

興味津々で札幌市のお隣の当別町を訪ねると、雪に埋もれた狭い道路をかわいい小型バスがせっせと走っていた。

JR札沼線石狩当別駅に降り立ったのは、平日の午前中のことだった。
南口ロータリーのバス停で待っていると、雪の道をかき分けて、当別ふれあいバス、通称「ふれバ」の空色の車体が近づいてきた。
駅周辺をぐるっと回る市街地循環線に乗車する。
14席しかない車内には、ほかに乗客は誰もいない。
こいつは取材にならないかも、と少々焦ったが、走っているうちに一人また一人と住民が乗り込んできた。
前方の席では、運転手と親しげにあいさつを交わす人も多い。

「今日は天気がよくなってよかったね」と運転手に話しかけていた60代の主婦は、週に2、3回はバスを利用するという。
「今日は買い物をして、今から家に帰るところ。ひざが悪いものだから、バスは助かるわね。運転手さんとだけでなく、知っている人が乗っているとよく話したりしますよ」と、車内でのひとときを楽しんでいるようだ。


運転手の高田邦雄さん(62)も、車内コミュニケーションが活発なことを認める。
「話しかけられたら、日常会話など言葉を交わします。顔見知りの住民も多いですからね。石狩太美駅と結ぶ路線などは、バスに乗ることが楽しみで利用するという人もいます。スタンプなどの仕掛けもありますから、楽しみにしているようですよ」

仕掛けとは、たとえば北海道日本ハムファイターズの野球観戦ツアーがある。
弁当代だけの負担で、観戦料もただなら、札幌ドームまでの交通費もただ。
条件は「ふれバ」を利用したというスタンプを3回押してもらうだけだ。
7月に開催した昨年は、140人もの町民が参加した。


「ほかに旭山動物園ツアーや余市果物狩りツアーなども企画しました。小学生の絵をバス車内に掲示する展示会もやりましたが、お子さんやお孫さんの絵を見に乗ってきてくれる。一度バスに乗ってもらわないことには、初めは取っつきにくいですからね」と当別町企画部の熊谷康弘企画課長(41)は説明する。

実はこの「ふれバ」、本格運行ではなく、まだ実証運行の段階なのだ。
当別町には以前、有料の路線バスのほか、北海道医療大学が患者や学生を対象に、町内にスウェーデンヒルズという住宅街を展開する開発業者が住民を対象に無料バスを走らせていた。
だが2路線あった有料バスが1路線撤退したこともあり、町が音頭を取ってこれらのバスを一元化。
下段(しもだん)モータースという貸し切りバスを営業していた町内の会社に委託する形でコミュニティバスの実証運行を始めた。
平成18年のことだ。

「当初は自動車事故対策費補助金を受けて運行していたのですが、19年に地域公共交通活性化法ができ、現在はその法律が定める協議会を設立して運行しています。
もともと無料だったところは今でも無料で利用してもらっていますし、全国でもありそうでない官民一体のバスといえるでしょう」と熊谷さん。
ちなみに運賃は一般一律200円となっている。


新法を利用した事業は富山市に次いで全国で2番目だったことでも話題を集めたが、ほかにもこのバスにはユニークな側面が多い。
たとえばバスの燃料は食用の廃油を利用したバイオディーゼル燃料だが、バスの車内でも使用済みの天ぷら油を回収している。
さらに小中学生向けに、バスを題材にして公共交通や環境問題について考える授業を実施するなど、多角的に展開している。

現在は市街地循環線、西当別・あいの里線など4路線で80便が走っているが、これを4台のバスでまかなっている。
実は4月から本格運行に移行することになっており、昨年12月にはダイヤを改正した。
協議会を構成する各事業者の意向を聞きながら4台で80便のダイヤを組むのは、実に大変な作業だと町では言う。

昨年4月からバス事業の担当になった企画課の大石和彦さん(33)は、今回のダイヤ改正を一手に引き受けた。
「歴代の先輩に教わりながら、JRの到着時刻に合わせるなど検討を重ねました。1路線1台だったら問題ないのですが、そうもいかないんです」と苦労を振り返る大石さんは「乗客は1便当たり6人以上が目標です」という。

本格運行が始まる4月からは補助金は出ない。
「ふれバ」の真価が問われるのはこれからで、熊谷課長も「先例というならいいけれど、成功例といわれるとむずがゆくなる」と話す。

とは言いながら、これまでに大分県や岡山県、福島県などから自治体や議会が視察に訪れており、注目度は高い。
「今後はこのバスをどう福祉政策に活用していくかという視点も必要かもしれない。補助金に頼らないで運行するところまでたどり着いた。まだまだこれからです」と気を引き締めていた。
【藤井克郎】


産経新聞より

投稿者 trim : 2011年02月27日 14:29