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2014年05月07日

トコロジストで地域の自然守れ

平塚市博物館の館長や日本野鳥の会神奈川支部長を務めた故・浜口哲一さんが提唱した「トコロジスト」を広めようと、日本野鳥の会がブックレットを出版した。

トコロジストは「トコロ」(場所)と「ジスト」(~をする人)を組み合わせた造語で、その場所の専門家という意味。

執筆に当たった同会職員の箱田敦只(あつし)さん(50)は「地域の自然を守るには、その場所にこだわり、常に保全を願い続ける専門家が必要」と浜口さんが唱えた理念の重要性を訴えている。


公私にわたって県内の自然保護活動に尽力していた浜口さんは、学識的な専門家とは違った視点で、地域の自然を守ろうとする市民に社会的な位置づけを与えたいと模索していた。
この考えをさまざまな著書や講演会で語り続け、共鳴した同会会員が2005年ごろに命名したのが「トコロジスト」だ。

2009年からは大和市で養成講座も開くなど、少しずつ活動を展開した。
しかしその直後の2010年、浜口さんは病気のため62歳で亡くなった。
浜口さんの遺志を継ぎ、トコロジストを広めようと、出版したのがこのブックレットだ。

体験編と実技編の2冊があり、体験編では、子育てを機にトコロジストに目覚めた箱田さんの実体験を紹介。
実技編では、フィールド選びから、歩き方、地図やカメラを使った観察記録の残し方、ブログなどでの情報発信まで、活動方法を具体的に解説した。

特に重要としているのは記録と発信だ。
「客観的な記録を残すことで、足元から環境の変化に気付くことができ、それを発信することで、地域の自然を守る意識を醸成することができる」と箱田さんは話す。

自然観察だけでなく、歴史や文化など幅広い見識を持つことも勧めている。
実は浜口さんには苦い経験があった。
かつて平塚で相模川河口の環境保全運動に取り組んだが、動植物の情報は大量に収集していたものの、ほかの分野の知識不足もあり、保護できずに終わっていた。
ブックレットに収録された浜口さんの講演録でも「ひとつの場所について専門家になるということは、いろんな分野のものの見方にまで視野を広げないといけない」とし、このときの反省がトコロジストの発想につながったと説明している。

里山などの緑地も多くが民有地のため、宅地開発などによって消滅する可能性をはらんでいる。
守るためには自然の知識だけでなく、日頃からの活動で人間関係を築き、その地域の歴史や文化なども把握しておく必要がある。

大和市の養成講座の卒業生の中には、トコロジストとして活動を続け、民有緑地の手入れなどを担いながら、地権者と良好な関係を築く例も出てきた。

箱田さんは「自然は動植物の事情だけでは守れない。その地域全体を知り、活動するトコロジストが増えれば、守れる自然も増えるはず」と期待を寄せている。
ブックレットはB6判、2冊セットで千円(送料・税込み)。
注文と問い合わせは、日本野鳥の会。

神奈川新聞より

投稿者 trim : 2014年05月07日 17:01