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2011年04月29日

「鋼製魚礁」


神戸製鋼所は、製鉄工程の副産物「鉄鋼スラグ」と間伐材を活用した鋼製の魚礁を海中に設置し、生態系を回復させる実証実験に乗り出す計画だ。

公共事業が削減される中、鉄鋼各社は鉄鋼スラグの新たな使い道として環境分野への応用をアピールしているが、神鋼の取り組みは海と山の両方の課題を解決する複合的なメリットが期待できるのが特徴だ。

「サンゴは白化し、オニヒトデによる食害も増えた。藻場や干潟もなくなった」

沖縄県では1990年代以降、自慢の海の変わり果てた姿を前に、ため息をつく漁業関係者が増えた。一方、山間部では松くい虫被害や台風による倒木による荒廃が目立っている。

これらの課題を一気に解決に導く可能性があるのが、神鋼が昨年6月、同県与那原町や地元の漁業関係者、建設会社と共同でスタートした5カ年計画のプロジェクトだ。
今年3月にはイタジイなど広葉樹の間伐材を組み込んだ鋼製の魚礁を海中に投入した。

内側に間伐材を組み込んだのは、海中に入れた間伐材は数カ月で腐食が進むとみられ、より早く養分が溶け出し、早期の効果発揮が期待されるからだ。
加えて、間伐材の活用にもつながり、地域の海と山を一体で保全することもできる。

虫が住みつく木材は魚類のえさ場となり、再び豊かな漁場を取り戻すことが期待できる。
今年度は新たに松くい虫被害にあった琉球松などの針葉樹を投入し、コスト面や沖縄の海域条件を含め、効果的な組み合わせを探る計画という。

神鋼はこれに先立ち、2009年7月から兵庫県姫路市の家島沖などで鉄鋼スラグを入れた鋼製の魚礁で藻場をつくる実験も行っている。

高度経済成長期以降、海藻が減り、魚がとれなくなる“磯焼け”が全国の漁場で問題となった。
海には河川を通じて落ち葉などが発酵してできた酸と、土の中の鉄分が結び付いてできる「腐植酸鉄」が流れ込み、これを養分として海藻が生え、多くの魚類が集まってくる。
ところが、森林伐採やダム建設が進むと海中の腐植酸鉄が不足し磯焼けが起きる。

そこで神鋼は、微量の鉄分やミネラルを含む鉄鋼スラグの活用を模索。
鉄鋼スラグの主成分は石灰やシリカ、酸化鉄だ。海中に投入すれば、この腐植酸鉄の代わりとなることが期待できる。

実際に鋼製の魚礁を瀬戸内海に設置すると、半年後にはその周辺に海藻が生い茂り、魚類が回遊するところも確認されたという。

同社の担当者はこれらの成果を受けて、「沖縄などでも木材と鉄鋼スラグの相乗効果を狙っていきたい」と意気込む。

鉄鋼スラグの応用はライバル各社にも広がっている。
新日本製鉄は全国の海域で、鉄鋼スラグと堆肥(たいひ)を入れた袋を海岸に埋め込む実験を実施。
JFEスチールや住友金属工業も海洋や森林保護などの実験を行っている。

各社が鉄鋼スラグの用途拡大に乗り出しているのは、公共事業の削減でアスファルトの下に敷く路盤材としての活用が減少している事情もある。

神鋼は、鋼製の魚礁を磯焼けに悩む自治体や漁業協同組合に販売することを目指している。
同社は「鉄鋼スラグだけでなく、鋼製魚礁の骨組みとなる鋼材の販売にもつながる」と、スラグに秘められた潜在能力に期待をかけている。
【米沢文】

産経新聞より

投稿者 trim : 2011年04月29日 19:49