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2012年08月20日

鉄鋼スラグで海の「藻場」再生

沿岸部で海藻が繁茂する「藻場」の再生で新日本製鉄の技術が威力を発揮している。

製鉄の副産物として生じるスラグをベースに添加物を工夫した製品を、袋や箱に詰めて海中に投入するだけで、海草類の生育に欠かせない腐植酸鉄を供給する仕組みだ。

安全な漁場造成用資器材として認証を受けており、今後は各地で利用が進みそうだ。

海中を覆っていたワカメやコンブなどが突然姿を消し、荒野のような海底が広がる「磯焼け」という現象が全国各地の海で確認されている。
海藻だけでなく、サザエやアワビ、魚の漁獲にも響き、藻場の再生は急務となっている。

磯焼けのメカニズムを理論づけたのが、北海道大学の松永勝彦元名誉教授ら。
周辺の山で大量の落ち葉によって作られる腐葉土が鍵を握る。
腐葉土中で作られるフルボ酸と呼ばれる物質が山中の鉄と結合し、海藻が利用しやすい2価鉄を作り、海に流れ込む。
広葉樹が茂る深い山々が豊かな海を作り出すわけだが、この仕組みが山林の伐採などで断たれたことが磯焼けの原因と結論づけた。

この理論に基づき、新日鉄の技術開発企画部温暖化対策研究企画グループの堤直人氏らは製鋼過程で生じるスラグを活用し、海水中に2価鉄を供給する技術開発に乗り出した。
同社が使用する鉄鉱石の鉄純度は約60%で、高炉での銑鉄、転炉を用いた製鋼工程を通じ大量のスラグが産出される。

スラグも鉄分を十数%含み、高強度の路盤材やセメント材料として利用されてきた。
磯焼け防止効果が得られれば、スラグの新たな用途が開拓できる。
また「藻場は二酸化炭素(CO2)の吸収能力の観点から、地球温暖化対策上も重要で、社会的貢献度も高い」(同社)。
しかし、スラグをそのまま海水中に入れても鉄分の溶出効果は限定的だ。

そこで、木材チップなどから人工的に作った腐葉土を粒子状のスラグと混ぜ、“豊かな山の土”を再現した。
2004年10月に、この素材をヤシがらでできた袋に詰め、磯焼けが深刻だった北海道増毛町の海岸に設置する実証実験が新日鉄と東京大学などで行われた。
半年後、設置場所周辺には見事なコンブが繁茂した。

この素材の効果をさらに確かめるため、2006年10月から増毛町のアワビ中間育成センターの水槽で、スラグや腐葉土との対照実験が行われた。
この施設自体は諸事情で翌年3月に閉鎖されたが、最終日に見てみると、同素材を投入した水槽にだけ立派なコンブが大量に生えていたという。

この成果をもとに、新日鉄は同素材を「ビバリー」という名称で製品化した。
商品名は自然環境を再現した動植物園などを指す「ヴィヴァリウム」に由来する。
その後、同社は千葉県富津市の研究所内に、専用の研究施設「シーラボ」を開設。
堤氏をグループリーダーとし、さらに検証を進めている。

ビバリーの効果は口コミでも各地の漁業者に広がり、新日鉄では今夏までに、全国28カ所で、袋に詰めた「ビバリーバッグ」を合計30トン、箱状の「ビバ リーボックス」を約70期納入した。
ただ、海中の鉄分が豊富な海域でも磯焼けが発生しているところもあり、導入前に水質調査も必要だという。
2010年2月には全国漁業協同組合連合会から、安全な漁場造成用資器材として認証を受けており、さらなる利用拡大が期待されている。
【高山豊司】

SankeiBizより

投稿者 trim : 2012年08月20日 11:23