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2012年09月03日

「ナイキVSアディダス」

既存の施設を活用しつつ、開発の遅れていたロンドン東部地域の発展を目指すなど、都市型五輪の新たな形態として注目を集めたロンドン五輪。

競技でも陸上競技のスーパースター、ジャマイカのウサイン・ボルトが2大会連続の3冠達成に成功したのをはじめとして、注目すべきトピックスが満載の大会だった。

一方でアスリートのパフォーマンスを支えるシューズをはじめとしたギアに関しても、各ブランドは独自のテクノロジーやマーケティング戦略で凌ぎを削っていた。

今回は特に「ナイキ」と「アディダス」という2大スポーツブランドのロンドン五輪におけるプロダクト戦略およびマーケティング戦略にスポットを当ててみる。

今大会で最も注目を集めたのはジャマイカのスプリンター、ウサイン・ボルトで間違いないだろう。
陸上競技の100メートル、200メートル、そして4×100メートルリレーの3冠を北京五輪に続いて達成するという史上初の快挙を成し遂げた。

しかしながら、もうひとつの「ボルト」の活躍があったことをご存じだろうか。
ここでいうボルトとは、ウサイン・ボルトの「BOLT」ではなく、ナイキが契約アスリートの多くに提供したシューズのカラーリング「VOLT」。
視認性に優れた蛍光カラーで、以前の記事でも紹介した「ナイキ フライニット レーサー」を筆頭に、「ナイキ ルナスパイダー R3」「ナイキ ルナレーサー」「ナイキ ズームストリーク 4」といったさまざまなモデルで展開した。
結果、陸上トラック、マラソンコースをはじめとした競技会場で圧倒的に目立つ存在となり、ナイキのブランドアピールに大きく貢献したのだ。

視認性の高いフットウエアを契約選手に提供する手法は、決して新しいものではない。

リーボックが「CITRON」という遠くからでも視認可能なネオンカラーのブラッダー(空気袋)を採用した「インスタポンプ」シリーズを契約アスリートに提供し始めたのは1993年。
ナイキも2010年のワールドカップ(W杯)南アフリカ大会では4つの異なるモデルのシューズにパープル/オレンジの共通カラーを施し、ブランドアピールに成功していた。

しかしながら今回のVOLTカラーは着用人数が多かったこと、着用アスリートが数多く上位に進出したことから、その露出は際立っていた。
本来、アスリートは自分の好みのカラーやこれまで勝利を収めてきた縁起の良いカラーで競技に臨みたいところ。
しかし今回のロンドン五輪ではナイキの契約アスリートのほとんどがVOLTカラーのフットウエアを着用し、特に陸上競技での同カラー占有率は非常に高かった。

筆者もウサイン・ボルトが100メートルで五輪新記録をマークした8月5日にメインスタジアムを訪れ、男子100メートル決勝以外にも女子400メートル、400メートルハードル、男子1500メートル、3000メートル障害といった競技を観戦したが、レースの組によっては1人を除き全員のアスリートがVOLTカラーを着用していたケースもあり、今大会のオフィシャルスポンサーではないナイキとしては、ブランド露出という点で大成功を収めたといえるだろう。

ひとつ誤算だったのは、女子マラソンを制したティキ・ゲラナ(エチオピア)と男子マラソンを制したスティーブン・キプロティック(ウガンダ)がVOLTカラーではないナイキシューズを履いていたことか。

ナイキは競技場外でのPRも巧みだった。
オックスフォードサーカス、ピカデリーサーカスといったロンドン屈指の乗降客となる地下鉄駅構内の至るところに広告を出して構内を広告ジャックすることにより、大会中のブランドアピールにも成功。
この広告戦略によって、ロンドン市民のなかでも「ロンドン五輪の公式スポンサーはナイキ?」と勘違いしているひとも少なくないということを、マスコミが報じていたほどだった。

一方、ロンドン五輪の公式スポンサーであるアディダスも黙ってはいなかった。

スポーツウエアプロバイダーのアディダスはドイツ、フランスはじめとした11カ国のユニフォームを正式提供していたが、なんといっても注目を集めたのが「TEAM GB」、すなわち英国代表ユニフォームだ。

ディレクタ―に人気ファッションデザイナーのステラ・マッカートニー(元ビートルズのポール・マッカートニーの娘)を起用。
彼女は英国旗のユニオンジャックをファッショナブルにアレンジし、スポーティーで機能性に優れながら、これまでのチームユニフォームにはない洗練されたデザインに仕上げた。
これにより、英国代表チームのユニフォームはサッカーカテゴリーを筆頭に、軒並み良好なセールスを記録したという。

英国国内でファッション感度の高いスポーツショップの代表格として知られる「JDスポーツ」のショップスタッフが「W杯を含めてもこれだけユニフォーム関連の商材が売れるのはなかなかないこと。
なんといってもスタイリッシュなデザインが好調なセールスの理由だろうね。
外国人観光客からの人気も高いよ」というように、ステラ・マッカートニーのクリエイティビティは英国国民のみならず、世界中から訪れる観光客のハートもキャッチすることに成功したようだ。

フットウエアに関してアディダスはレッド/ホワイトをテーマカラーに、陸上競技からフェンシングやボクシング、ウェイトリフティングまでさまざまな競技の専用シューズを開発。
スプリント種目のタイソン・ゲイ(米国)やベロニク・キャンベル・ブラウン(ジャマイカ)をはじめとした多くのアスリートが着用したが、ナイキほどカラーの統一を強制しなかったようで、女子マラソン日本代表の尾崎好美選手と木崎良子選手など、好みのカラーを着用する選手も珍しくなかった。

さらにアディダスは今大会の7万人を超えるボランティアスタッフが着るアパレルとシューズを提供。
注目はボランティアが履いていたシューズだ。
「FLUID」と名付けられたプロダクトは日本でも展開された「フルイドトレーナー」をベースに、屈曲性に優れたソールユニットとアッパーを組み合わせて快適な履き心地を追求したモデル。
市販モデルと異なっているのは、アッパーのパターンを変更してパターン効率が70%を超え、廃棄物削減に貢献していることであり、アディダスの歴史のなかで最も地球環境に配慮したプロダクトのひとつとなっている。

これ以外にもテニス競技男子シングルスで金メダルを獲得したアンディ・マレーが着用していたテニスウエアはペットボトルからリサイクルされたポリエステルを使用するなど、アディダスにとって機能性と地球環境保護の両立も大きなテーマだったようだ。

さらにアディダスは五輪開催期間中、カーナビーストリートの1本裏側ニューバーグストリートに「adizero primeknit」のポップアップ(期間限定)ストアをオープン。
「adizero primeknit」とはナイキのフライニットと同様にシームレスのワンピースアッパーを採用したランニングシューズ。
このポップストアのみで2012足を限定販売(212ポンド、日本円で約2万6500円。2012年8月末現在)。
シュータンにはシリアルナンバーが編み込まれるといったスペシャル感満載の仕様に加え、インソールや店頭に置かれたリーフレットに「made in germany」と表記するなど、ドイツのクラフトマンシップを強調していた。
この「adizero primeknit」がロンドン五輪でトップアスリートが着用されたかどうかは不明だが、そのスタイリッシュなデザインはストリートシーンで着用しても、足元のアクセントとして最適。
今回はゲリラ的に展開されたようだが、日本を含めた世界で展開しても大きな話題となることだろう。

今回のロンドン五輪はホテル料金の高騰や柔道競技などにおける不可解な判定など、いくつかの問題もあったが、おおむね成功裏に閉幕したといってよいだろう。
その裏で繰り広げられたスポーツブランドの熾烈なプロモーション戦争にも注目が集まり、オフィシャルスポンサーとして正攻法のマーケティング戦略とプロダクト戦略で今大会に臨んだアディダスに対し、VOLTカラーのシューズで効果的なブランド露出に成功したナイキをはじめとして、各ブランドの最先端プロダクトが世界最高のスポーツの祭典で凌ぎを削った。

4年後のリオデジャネイロ五輪では今大会以上の激しい戦いが繰り広げられることは間違いない。
マーケティングプロモーションにおいても、プロダクトテクノロジーにおいても。
【南井正弘】

nikkei TRENDYnetより

投稿者 trim : 2012年09月03日 12:53