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2012年10月29日

じょうえつ東京農大


新潟上越市の中山間地で耕作放棄地を再び開墾して、有機農業を軸に再生させる取り組みが進んでいる。

核になるのは東京農業大学(東京・世田谷)が中心となって設立した株式会社「じょうえつ東京農大」だ。

大学が農業法人を設立するのは異例だ。


有機栽培のコメや農大ブランドの加工品などが人気を集め、売上を徐々に伸ばしている。

じょうえつ東京農大は2008年の設立で2009年から農業生産を始めた。
それまでは文部科学省の学術フロンティア事業として、経営として成り立つ有機農業の研究を進めていた。
試みをさらに深めようと、大学関係者や地元の有力企業などが5千万円を出資してスタートした。

まず取り組んだのは同市西部の桑取・谷浜地区の約10ヘクタールの農地の再生だ。
同地区は50年ほど前に県の開拓事業で180ヘクタールの農地が造成されたが、3割は耕作放棄地になっていた。

社長を務める東京農大バイオビジネス環境学研究室の藤本彰三教授は、「農業生産額の約4割を占める中山間地域の活性化は日本の農業の再生に不可欠」と力説する。

本社は世田谷区の東京農大内にあるが、上越市の農場では5人のスタッフが有機の里づくりに取り組む。
主力の生産品目はコメだ。
山麓から引いた水を使って生産したコシヒカリは粘りが強すぎず、香りや甘みがしっかりしている。
有機栽培のため原発事故後に消費者の安全志向が強まり、販売は好調だ。

冬場にはダイコンをつくる。
ソバとカボチャの二毛作を軌道に乗せたほか、ズッキーニやジャガイモなど生産品目を13種類に増やした。
栽培面積は14ヘクタールまで拡大した。

生産手法の研究としては有機栽培の課題である除草方法を中心に取り組む。
アイガモ農法のほか光を遮断する再生紙を使ったり、水田に米ぬかをまいたりした。
収穫の繁忙期には大学生や研修生に農業体験や研究の一環として参加してもらっているが、さらに都会から人を呼び込むアイデアを練る。

収穫物や加工品はインターネットや上越市の小売店のほか、都内の東京農大の併設カフェなどでも販売する。
武器になるのは「大根踊り」などで浸透している「農大」の知名度だ。
今年度は上半期まで売上高が前年度を15%ほど上回っており、黒字を確保できる可能性も出てきた。

課題も多い。
収入のうち、中山間地に対する直接支払制度による補助金が約2割を占める。
5人のスタッフを抱えるため、より規模を拡大しなければ経営は安定しない。
コメの収量は10アールあたり300キロ以下と通常の6割ほどにとどまる。

強みは全ての農地で有機JAS(日本農林規格)認定を取得していることだ。
今後は黒字を確保したうえで、他の企業に委託している漬物や調味料など加工品の生産を自前の加工施設で手掛けるのが目標だ。

同社の試みは東京農大が掲げる実学の精神や社会貢献そのものだ。
ただ、経営の安定は不可欠だ。
藤本社長は「有機栽培をベースに全国の中山間地で生かせる経営モデルをつくりたい」と話す。
作物や加工品だけでなく中山間地の再生モデルで新たな「農大ブランド」を確立できるか。
挑戦はつづく。
【高田哲夫】

日経流通新聞より

投稿者 trim : 2012年10月29日 10:54