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2014年04月25日

“走るレストラン”


光り輝く東シナ海を眺めながら、ホテルのラウンジカフェのような車内で、4時間ほどかけて沿線の旬の食材をゆったり味わう。

九州西海岸を南北に走る肥薩(ひさつ)おれんじ鉄道の「おれんじ食堂」は編成の一部に連結される食堂車ではなく、列車そのものが食堂車だ。

完全予約制で今やおれんじ鉄道のドル箱観光列車になっている。

深みのある茄子(なす)紺(こん)色、2両編成の列車は「ななつ星in九州」などで知られる水戸岡鋭治がデザインした。
“ダイニング・カー”と称する1号車は指定座席数23席。
ミズメザクラやナラ材をふんだんに使った室内には可動式のイスが並べられ、2号車・指定座席数20席の“リビング・カー”にはレースのカーテンで仕切られた半個室席がある。

他に類を見ないのは、途中駅からも地元産の料理が積み込まれて車内で皿に盛り付けられ、次々に皿を変えてテーブルに並ぶことだ。
食器は緊急停車訓練を何度も重ねて開発された転倒しにくい陶器やガラス類が採用されている。

「おれんじ食堂」の運行開始は昨年3月24日。
週末や長期休暇を中心に年間215日、1日3便の運行で全国から観光客が訪れ、昨年11月までに1万人あまりが乗車、約1億1,800万円を売り上げている。

昨年8月8日には団体客用貸切列車「おれんじカフェ」も走り始めた。
軽食が楽しめて、大小さまざまなイベントなどに利用される臨時列車だ。
通常ダイヤの列車(1車両46席)が使われ、1時間程度の片道貸切でソフトドリンク込み6万円。
別料金で弁当やスープが付く。この「おれんじカフェ」、多いときは月に20本ほど予約が入る。

開業は10年前。
当初年間188万人だった輸送人員は2012年度には136万人まで急落。
毎年1億5,000万円から1億8,000万円の赤字が出る体質だという。
そんな鉄道会社がなぜ「おれんじ食堂」を導入できたのか。
昨年10月に就任した三代目社長の淵脇哲朗(66)はこう話す。
「水俣市が環境首都水俣創造事業を始めることになり、環境省が10億円の予算を付けました。そこから沿線を縦断する当社に観光商品の開発という名目で4,000万円、さらに熊本・鹿児島両県から500万円ずつの補助が加わり、当社負担分と合わせて5,700万円ほどでおれんじ食堂を企画、社員全員の努力で事業化にこぎつけたのです」

今年3月21日、「おれんじ食堂」のメニューが一新された。
営業部マネジャーの桑原林太郎(39)はこう話す。
「計画から試運転、運行まで半年かかりました。メニューの試食を何度も行い、ダメ出しを重ね、現時点で最高のメニューやサービス体制を確立しました」

新生「おれんじ食堂」は3便。
1便は出水駅→川内駅の朝食列車だ。
2便は川内駅→新八代駅。
黒豚を使ったオードブル類、魚料理、肉料理で三つの沿線レストランのコラボレーションランチが提供される。
3便は新八代駅→出水駅(Aコース)と出水駅→川内駅(Bコース)の二つ。
Aコースは地元産オリジナル菓子 を提供するスイーツ列車、Bコースはおれんじ食堂と水俣市の提携レストランが合作したスペイン料理。
AコースとBコースを合わせたプランもある。

「おれんじ食堂、そしてこの列車を通じての地域のブランド化、インバウンド(外国人旅行客の誘致)などを私たち営業スタッフが強力にプッシュしていきたい。この事業の成否が会社の今後を決めるからです」(桑原)
「おれんじ食堂」は肥薩おれんじ鉄道の生き残りの鍵を握る切り札なのだ。

読売新聞より

投稿者 trim : 2014年04月25日 16:27