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2011年04月24日

優れた酵母でバイオ燃料


環境にやさしいエネルギーとして注目されるバイオエタノール。

米国などではトウモロコシを原料としているが、エタノール向けの需要が増えて相場が高騰し、本来の食料用途に影響を及ぼす問題も出ている。

そこでサッポロビールが乗り出したのが、植物廃棄物などの活用だ。

共同研究者の磐田化学工業(静岡県磐田市)が培養した酵母を利用し、タイなどで実証実験を進めている。
実用化すれば、アジアでバイオエタノールの低価格化も図れ、環境問題解決に一役買いそうだ。


バイオエタノールは、原料を酵母で発酵させて生産する。
原料となる植物は生育中に二酸化炭素(CO2)を吸収するため、発電用などに燃焼してもCO2を増やさないと位置づけられる。

サッポロビール生産技術本部(同焼津市)の三谷優研究主幹ら研究チームは、ビール造りで培った発酵技術を応用し「本業と食い合わない新エネルギーをつくりたい」と、2007年ごろから食品用の植物廃棄物を活用するバイオエネルギーの研究開発に取り組んできた。

現在、三谷主幹らが研究を進めているのが「クルイベロマイセス・マルキシアヌス」というヨーグルトやテキーラに入っているという酵母だ。

これまでエタノール生産に利用されてきた酵母よりも高い温度で、しかも繰り返し発酵できることが2006年に山口大学の研究グループによって実証されていた。

2007年に磐田化学が菌株を譲り受けて培養していたところ、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が環境技術を東南アジアに輸出する事業を企画。
これに参画する形でサッポロと共同研究を進めてきた。

高温発酵が可能になると、エタノールの生産過程で「さまざまなコスト削減が可能になる」と、磐田化学先端技術開発室の阿野明彦室長は説明する。
バイオエタノールの製造過程では、三谷主幹らが目指す農業残渣(ざんさ)などの固形物を原料とする場合、酵母で発酵させる前に、90度の高温で「α(アルファ)アミラーゼ」を注入する。
その後酵母を投入するが、これまでは酵母が死滅しないよう32度まで冷却する必要があった。
ただ、発酵後、蒸留するには再び加熱するため、冷却と加熱装置が必要だった。

その点、クルイベロマイセス・マルキシアヌスは40度での高温発酵が可能なことから、冷却、加熱工程を簡略化できる。
研究チームは冷却のための冷凍機設置費用5,000万円や冷却・加熱などにかかる3,360万円(年間)、温度管理の失敗によるロスを年間1.5億円(3万㌔㍑プラントの場合)を削減できると試算。
現在、燃料用バイオエタノールの生産には、少なくとも1㍑当たり300円程度かかるが、「生産コストが低下すれば最終価格も下げられる」(三谷主幹)と期待する。

昨年春には、バイオエタノールの原料として広く利用されている原料「廃糖蜜(サトウキビの絞りかすの液体)」をクルイベロマイセス・マルキシアヌスで発酵させる実験を焼津市の研究所で、秋にはタイでも実験を実施。いずれも高温で繰り返し発酵可能なことを検証できた。

次のステップは、タイで大量に廃棄されている「キャッサバパルプ」(キャッサバからデンプンを抽出した残りかす)の利用だ。

廃糖蜜の約7割程度の原料コストでエタノールの生産が可能といい、今年以降実証実験に着手したいとしている。
【金谷かおり】

産経新聞より

投稿者 trim : 2011年04月24日 18:54