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2012年03月14日

「鉛ガラスカレット」

物質・材料研究機構(NIMS)は、2011年7月に同機構が発表した、使用済みテレビのブラウン管ガラスを砕いた「鉛ガラスカレット」が放射線の遮蔽に有効であるという事実を活かし、それを活用した新材料の開発を提案していたが、3月12日、民間企業2社がその提案を受けて新材料の開発に成功したと発表した。

今回の開発は、NIMS元素戦略材料センター資源循環設計グループ(グループリーダー:原田 幸明)と、清水建設、R-Japanによるもの。

清水建設は「ブラウン管破砕カレット利用コンクリート」を、R-Japanは「ブラウン管破砕カレット利用遮蔽用防水材」をそれぞれ開発した。

ブラウン管からは微弱な放射線が出ているため、視聴者に悪影響を与えないよう、鉛やバリウムなどγ線遮蔽性の高い元素が加えられている。
ブラウン管後部のファンネル部では25%近く鉛が含まれ、平均でも10%近くになるほどだ。

通常、廃ブラウン管カレットは精製されてから、船舶で海外に輸出されている。
しかし、福島第一原子力発電所の事故直後の4月に、未踏科学技術協会・エコマテリアルフォーラムが、遮蔽材として再利用の可能性を提言。

それを7月にNIMS元素戦略センター資源循環設計グループがアトックスの協力を得て実際に遮蔽効果があることを実証し、遮蔽用素材の開発を呼びかけてきた。
それを受けて民間企業2社の努力により、このブラウン管破砕カレットを用いた放射線遮蔽機能を持った材料が開発されたというわけである。
なお、ブラウン管破砕カレットは家電製品協会の会員会社の協力によって収集した形だ。

遮蔽試験に用いたコンクリート(1)はカレットを用いない普通コンクリート、(2)は骨材の多くの部分を粗カレット(画像1・左)と細カレット(画像1・中央)に入れ替えたもの、(3)はさらに粗カレットの比率を高めた上に粉砕したカレットの粉体(画像1・右)を加えたもの3種だ。

なお、コンクリートは清水建設の経験と技術を活かして、これらの骨材原料以外にセメントや水などを適切に配合し、普通コンクリートと同等以上の品質を確保することができたという。

放射線の遮蔽試験は、アトックスの60Co(コバルト)照射室内で行ない、0.8ペタベクレル(PBq)のコバルト線源から空間線量率約40Gy/h(ギガグレイ毎時)の位置に線量計を設置し、その前方に厚みを変えた供試体を置き、空間線量率の減少から遮蔽能力が調べられた(画像2)。

なお、空間線量率とはご存じの方も多いかと思うが、対象とする空間の単位時間当たりの放射線量のことである。放射線の量を物質が放射線から吸収したエネルギー量で測定する場合、線量率の単位は、Gy/h(グレイ/時)。
なお1Gyは被曝線量から見るとほぼ1Sv(シーベルト)に当たる。

その結果が画像3のグラフとなる。
(2)と(3)の違いはほとんどなかったが、(1)の普通コンクリートに対しては約1割の厚みを削減しても同等の透過率となることが確認された。

また、この結果から「F=exp(-μxt)」の関係で表される遮蔽体の線減弱係数μ(単位cm-1)を得て、普通コンクリートと比較すると画像4のグラフようになり、同じ100cmの厚みで用いると透過放射線量は1/4、50cm の厚みでも1/2に減少することが確認されたのである。

もう1つのブラウン管破砕カレット利用遮蔽用防水材は、R-Japanが取り扱っている「高分子2液型フレックスフライアッシュ防水材」の技術が応用された、高分子中にブラウン管ガラス破砕カレットを埋め込んだ遮蔽用防水材である。
画像5は、遮蔽用防水材(矢印の板の部分)を遮蔽能試験に供した時のものだ。
試験は、ブラウン管破砕カレット利用コンクリートと同様にアトックスの協力を得て行われた。

その遮蔽能として放射線透過率と厚みとの関係を示したのが画像6だ。
この結果からすると、放射線の透過量が1/10になる厚みは28.6cm、1/100になるのは57.3cmであることがわかる。

また、遮蔽用防水材をほかの素材と比較したものが画像7の表だ。
同等の遮蔽効果に対して高分子を用いているため、ほかの素材に比してより軽量にすることができているのがわかる。
また、高分子中に鉛ガラスが埋め込まれているため、使用時の鉛の溶出や、錆びてしまう心配もなく、さらに高分子によって防水性を確保しているため、水と共に放射性物質が中に染み込んだり、強固に固着したりすることもないという特徴もある。

ここで遮蔽能を発揮しているものはブラウン管ガラスの中に10から25%添加された鉛(Pb)だ。
そのため、この鉛が使用後に土壌などに溶出しないように注意する必要がある。
清水建設では、製品のライフサイクル管理の観点から使用後を想定したブラウン管破砕ガラスカレット使用コンクリートの鉛溶出試験を実施した。

方法は、検疫の作成がJIS法のJIS K 0058-1「スラグ類の化学物質試験方法-第1部:溶出量試験方法」5.利用有姿による試験。
検疫の分析は、「Pb:JIS K 0102-2008 54.4 ICP 質量分析法」となっている。

その結果が画像8で、JIS K0058-1に基づくコンクリート供試体のままの「有姿」の試験では、紛体を混合させた資料3のタイプのコンクリートにおいても、0.01ppmをはるかに下回る鉛溶出量であることが確認されている。

以上の留意点を踏まえると、今回開発された材料は原子力発電所の敷地内もしくは、集中的な処置が求められる放射性汚染物の中間処分、最終処分における隔離層や遮水層などヘの利用が考えられるという。

敷地内においては、汚染瓦礫処理の一時遮蔽や、格納、汚染水ピットの蓋などに画像9に示すようなプレキャストコンクリートとしての利用が考えられる。
土壌、汚泥などの放射性汚染物質の集中処分場においては、画像10に示すように、汚染物質を固化、もしくは容器に入れたものから放射線の外部放出を遮蔽する材料として使用することが期待できるとした。
【デイビー日高】

マイナビニュースより

投稿者 trim : 2012年03月14日 14:48