« エコ暮らし未来館 | メイン | 「レモンの石碑」 »

2012年05月28日

“市民出資”でソーラー発電事業

市民の資金を集めて太陽光発電パネルを住宅や事業所などに取り付け、発電した電力を電力会社に売電する。

そんな“市民出資”型の太陽光発電事業が活発化している。

環境ベンチャーの「ソーシャルエネルギー」(長野県松本市)が拡大に乗り出したほか、東京都多摩市の市民グループが市民共同発電ビジネスの構想を打ち出した。

「未来の子供たちに住みよい社会環境を残したい」

片瀬開(かい)社長がそうした思いを強め2011年7月に設立したのが、再生可能エネルギーの普及事業を主力とするソーシャルエネルギーだ。
起業のきっかけは、昨年3月の東日本大震災と福島第1原発事故。
その影響を深刻に受け止め、市民の力で発電し地域内で消費する「地産地消型エネルギーシステム」を広める一助になりたいと考えた。

そこで同社は、長野県松本市や安曇野市などで市民出資型太陽光発電事業を拡大する。
今年度中を目標に、100戸の戸建住宅に太陽光パネルを新設する。

拡大を狙う事業は「おひさま0円システム2012」。
その推進役「おひさま進歩エネルギー」(同飯田市)と提携し、松本市周辺での事業運営を始めた。

流れはこうだ。
例えば、松本市在住の家族が太陽光パネルを初期費用ゼロで屋根に付ける。
設置後9年間は、月1万9,800円(出力3.2キロワットの場合)を定額で支払う。
省エネ努力によって電力会社への売電を増やせば、月々の負担を減らせる。

さらに、全国の市民からの出資金を元手に発電設備に投資する「おひさまファンド」を使うことも特徴。
各家庭はファンドに「パネル設置料」を払う。
ファンドは、その利益を出資者に配当金として還元する。

この仕組みで、すでに15戸に太陽光パネルを付けた。
片瀬社長は、その実績を約10倍にする戦略を描く一方、市民出資によって工場や商業施設、病院などにパネルを広める構想も温める。
目標は1,000キロワット規模だ。

市民の力で発電する動きは、東京都多摩市でも浮上した。
仕掛けるのは、5月に発足した市民グループ「多摩市循環型エネルギー協議会」だ。
同市在住の元会社員や建築士ら有志が集まり、昨年10月から結成準備を進めていた。

とはいえ、市民運動で終わらせるつもりはない。
同協議会の山川陽一事務局長は「利益を継続的に生み出し発展しなければ、再生可能エネルギー普及の一翼を担えない」と意気込む。

同協議会の構想は「市民出資」という基本理念はおひさま0円システムと同じだが、独自の視点で練りに練った。

その特徴は、市民の出資によるファンドを元手に市内の集合住宅や公共施設などの屋根を借り、太陽光パネルを設置すること。
発電した電力は売電し、収入を出資者への配当に回す。
さらに発電事業に伴う余剰金は市の基金に積み立て、再生可能エネや省エネの普及を促す補助金に役立てるという。

仮に、多摩や八王子など4市をまたがる「多摩ニュータウン」全体の屋上に太陽光パネルを設置した場合、発電量は4万9,000キロワット時を見込める。
ニュータウン総戸数の約4分の1に当たる1万2,500戸分の消費電力をまかなえる規模だ。

そのスキームを担うのは、協議会とは別に設ける「事業体」だ。
研究や試行事業を経て、3年後の事業化を目指す。

7月から始まる再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度を追い風に、各地でメガソーラー(大規模太陽光発電所)の建設計画がめじろ押しだ。
そこで問われるのが、市民の参加意識をどう高めるかだ。
片瀬社長は「一人一人に会い再生可能エネルギーの大切さを伝えられるのが市民出資型だ」と語る。

買い取り制度開始に伴い、太陽光パネルの有無にかかわらず国民負担が増す。
そうした中で「社会的意義の高い発電事業」を選ぶ機運が高まるとみられ、その一つとして市民出資型への注目度が増しそうだ。
【臼井慎太郎】

フジサンケイ ビジネスアイより

投稿者 trim : 2012年05月28日 16:57