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2014年05月13日

進化する緊急消防車両

東日本大震災は津波やがれきの影響で被災者の救援活動が思うように進まず、大規模災害時の救助態勢に多くの課題を突き付けた。

この教訓を生かすため、総務省消防庁は新型の消防車両を開発し、大震災3年を機に全国へ本格配備を開始した。


「大震災の最大の反省点は、隊員が能力を最大限発揮するための環境整備が不十分だったことだ」と、総務省消防庁広域応援室の杉田憲英室長は話す。
大震災では岩手、宮城、福島の3県に全国から延べ約11万人の緊急消防援助隊員が駆け付け、88日間にわたって救助に取り組んだ。

だが、3月の東北はまだ寒く、津波浸水域での過酷な活動などで隊員の疲弊は激しかった。
これほど大規模で長期の活動は想定していなかったため、作業を終えても温かい食料やシャワーが不足し、薄っペらな野営テントでは震えが止まらず眠れない。
これでは、いかに鍛え抜いた隊員たちでも士気が上がらない。

そこで開発したのが「拠点機能形成車」だ。
普段は巨大なトレーラーのような外観だが、被災地に到着すると、荷台部分がせり出して広さ約40平方メートルの空間が出現し、隊員の休憩所や指揮本部になる。

冷暖房を完備した大型エアテントと簡易ベッドを搭載し、隊員100人の寝泊まりが可能。
調理器具やシャワー、トイレも備え「これなら十分に英気を養える」(杉田室長)。
1台1億1千万円で、3~4月に全国に6台配備。
今年度さらに3台追加する。

災害発生時、人命救助には最初の72時間が重要とされる。
これ以後は生存率が急激に下がるからだ。
だが大震災の被災地は津波の水とがれきに覆われ、被災者のいる場所に急行するのが困難だった。

この教訓から、水陸両用のバギー(荒れ地走行用の車両)が開発された。
車体左右に4個ずつ幅広の極太タイヤを備え、全輪で駆動するため荒れ地での踏破性は抜群。
最大30度の急斜面も登坂可能だ。
左右のタイヤを逆回転させ、その場で進行方向を変えることもできる。

また、極太タイヤにたっぷり詰まった空気のおかげで水に浮き、タイヤの深い溝で水をかいて水上を時速4キロで航行する。
これを使えば、がれきも浸水域も踏破できるというわけだ。

一般道の走行は効率が悪いため、専用運搬車両とのセットで4千万円。
今春、全国に15台配備し、さらに今年度中に2台追加する。

現行車両は、救助が必要な人の所に駆け付けて、より安全な場所に運ぶ「救急車型」だが、今後は消火活動ができる「放水車型」や、水源からポンプで水を供給する「給水車型」など、さまざまなタイプに進化。
これらを連携させて、より効果的な救援活動を目指す。

東日本大震災では被災地での活動だけでなく、全国規模の機材・人員輸送も大きな課題となった。
巨大地震や大津波で交通網が広域に寸断され、救助を妨げたからだ。

緊急消防援助隊の出動人数がピークの6,835人に達したのは、震災から1週間後。
杉田室長は「もっと早める必要がある。人が足りず、機材もなければ現地での救援活動が進まない」と語る。

これを受けて、総務省消防庁は自衛隊との連携を強化。
昨年10月、台風26号の影響で伊豆大島(東京都大島町)で起きた大規模な土砂災害では、発生から4日後までに、航空自衛隊の輸送機で緊急消防援助隊員57人、救助工作車をはじめとした消防車両13台の輸送を完了するなど、すでに実績を上げている。

このほか、高い精度の遠隔操作で被災地の様子を調べる情報収集ロボットや消火活動に当たる放水ロボット、搭載した高性能カメラで被災者を捜索する無人ヘリコプターなど、さまざまな研究が進んでいる。

杉田室長は「最悪の事態を想定すれば、やるべきことはまだ多い。さらに装備を充実させ、首都直下地震や南海トラフ巨大地震に備えなくてはならない」と話している。
【伊藤壽一郎】

産経新聞より

投稿者 trim : 2014年05月13日 10:36